会社について
【特別版】TechMagic 創業5年記 by CEO 白木裕士
2023/02/28
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2018年2月1日に創業したTechMagicは、今年の2月1日で丸5年になりました。 ベンチャー企業の創業から5年後の生存率は15%を生き抜いたということで、10年後の生存率6.3%、更に20年後の0.3%に向けて思考を整理し、TechMagicの存在意義を明確にしたいと思います。
目次
テクノロジーによる持続可能な食インフラを創るとは
TechMagicが掲げるビジョンは、「テクノロジーによる持続可能な食インフラを創る」です。
食産業を構成する外食、中食、内食の領域において、食品生産、加工、流通、販売の食インフラをテクノロジーによって創り、パフォーマンスを最大化することを意味しています。少子高齢化が深刻化していく中で、食産業を支える企業、ヒトは、テクノロジーを用いることで更に付加価値の高い領域にリソースを割き、価値を上げていくことができると思っています。逆を言えば、食産業の生産性は、他産業と比べて低いことを課題と感じています。
一人当たりの生産性を上げていくことは、食産業にとっても、食産業従業者にとっても重要で、企業にとっては生産性が上がれば新たなイノベーションへの挑戦や優秀な人財に投資をすることができ、食産業従事者にとっては賃金が上がったり、労働環境が改善することに繋がったりします。食産業は日本の誇りであり、人類にとって必要不可欠な産業です。だからこそ「テクノロジーによる持続可能な食インフラを創る」ことが重要なのです。
創業丸5年で見て感じた食産業の3つの課題
【産業課題】生産性の低さ
メディアなどで「失われた30年」等と言われることもありますが、日本の一人当たりの生産性は国別で比較しても非常に低いのが見てわかります。これを改善するには、日本全体のGDPの70%を占めるサービス産業の生産性をあげることが重要です。米国をはじめとした先進国では一人当たりのGDPは各国成長できているので日本が生産性をあげることは確実にできると思っています。
食産業における1人当たりのGDPを米国と比較すると、1900年を100とした場合、米国は継続的な生産性の伸びが見える一方、日本はほぼ横ばいになっています。
【企業課題】人手不足
世界情勢の不確実性が高まる中で、マクロな視点ではっきりわかることの一つは人口減少です。日本の人口は減ります。また、長期では世界中で人口が減ります。人口統計では、100億程度でピークに達し、減っていくとのことです。その人口減少に伴う人手不足で最先端を走っているのは日本です。人手不足は、全産業で既におきはじめています。しかし、人口減少が進む今こそパラダイムシフトを起こせるチャンスに遭遇しているとも言えます。この人手不足の中で、持続可能な事業体制を早期に構築することが出来れば、産業の中で競争優位性を築くことができるのは言うまでもありません。
【企業課題】低利益構造
もう一つの課題は、食産業における低利益構造です。三井住友銀行の調査によると飲食店の平均利益率は2%と言われています。TechMagicは創業当初に、低利益構造の課題を解決するために、飲食店のコスト構造の70%程度を占めるコストを抑制するために調理ロボットと業務ロボットの2つの領域に資源を集約化することに決めました。
調理ロボットという厨房のイノベーションと可能性
「人類から調理を解放したい」「調理ロボットが当たり前になる新しい未来を創り、調理したばかりの温かい健康的な食事を、一人ひとりの嗜好などに合わせて提供したい」と調理ができなくなった祖母が栄養の偏った食生活を送っているのをみて感じ、創業を決心しました。
創業時は実証実験で頓挫し上市が叶わないロボットベンチャーの歴史・事例が多いことを念頭に、セグメントリーダーの導入先企業様と一緒に要件仕様を協議し、コア技術を蓄積する戦略を進めてきました。この5年間で「茹でる」「炒める」「揚げる」調理ロボットを開発してきました。
プロントコーポレーション様の新業態「エビノスパゲッティ」に2022年6月末から複数店舗に導入させて頂いているP-Roboは、一般的なロボットアームが多能工で複数の工程を担うセル生産的なスタイルではなく、通常の工場でのライン生産と同じく調理の各工程を直列且つ直線的に並べる構成にすることで飲食店のピークタイムに耐えうるスループットを実現する調理ロボットです。また、ロボットが主役ではなく提供される商品が主役となるよう食体験(美味しさ)に直結する付加価値の高い盛付作業はヒトが担う設計としました。
調理ロボットを導入することで通常店だと3分ほどの調理時間だったのに対し、最短45秒で調理が可能となりました。極力厨房内でヒトが動かないオペレーションにすることで従来の店舗に比べ生産性は3倍程度の生産性向上に繋がり、厨房内のスタッフは2-3人から1-2名で運営できるようになったと評価いただいています。
その他、2023年2月1日の創業5周年日に発表したのが日本ケンタッキー・フライド・チキン様と開発契約を締結した揚げロボットです。この調理ロボットも食材供給、揚げ調理、計量袋詰め、整列保管を幅広い一連の作業工程を自動化します。自動化により生まれた時間でヒトがこれまで以上にお客様へのサービスに取り組める環境を実現し、従業員とお客様の双方の環境改善と満足度向上に貢献するための取り組みです。
TechMagicは厨房調理にイノベーションを起こすために、食材・ソースの供給、調理などの定量精度が求められる一連な作業をハードウェアとソフトウェアを高度に融合し調理ロボットで自動化してきました。熟練シェフの味の再現をスケーラブルに解消することで、人手不足や生産性などの課題を解決できると確信しています。
業務ロボットという工場のイノベーションと可能性
調理ロボットの他にTechMagicの成長を支えているのは、業務ロボットです。TechMagicでは、食品工場向けの盛り付けロボットを日清食品様やキユーピー様などと取り組んでいます。一般的な食品工場の盛付ラインには8-12名ほどの盛付スタッフがコンベアを挟み配置されており、決められた重量範囲内で何時間と数十秒ごとに盛付しています。
食品工場でも飲食同様に人手不足の課題があり、持続可能な事業運営体制を構築していくかが試されています。そこで、TechMagicでは最新の機械学習手法を活用して、繰り返し作業の自律動作を実現しています。特に強みがあるのは、ロボットの手にあたる独自に開発した食品用グリッパで食品コンテナに入れられた惣菜などの様々な食材を正確な量をつかむことが出来る様に設計されています。もう一つがロボットの目にあたる画像センサによる知的なピッキング制御技術で、3次元の距離画像センサを用いてコンテナ内の食品の形状を取得し、食品のピッキング位置での取得重量を推定し、目標重量をクリアできるように制御するように開発されています。
これらの技術により、高い重量精度で自動盛り付けが可能になり、99%のサンプルが計量法範囲内の重量となり販売することに成功できた実績をつくることができました。
盛り付けロボットの他に、フジマック様と食器仕分けロボット「finibo」を開発し、2022年5月から本格稼働しています。
食器仕分けロボットも、洗浄室の作業者の負担軽減とコストの削減を実現し、生産性向上に繋げています。独自のロボット知能制御技術により、最高600枚/時間の食器仕分け作業を自動化することに成功しています。ロボットを知能化する認識技術で食器の形状・色を認識することが可能で、ロボットに食器を学習させることで扱う食器の種類を増やすことにも対応できます。
洗浄作業は高温多湿の環境下で長時間立ち作業を強いられるため、人手不足になる傾向が高いのは言うまでもありません。
いくつかの開発事例をご紹介しましたが、TechMagicは顧客第一主義で自動化の範囲、サイズ、スループット、その他制約条件など導入顧客の要件を整理しながら技術的実現性を見極め汎用的で省人効果の高いロボットソリューション開発に資源を投資してきました。
大切にしたいTechMagicの文化
挑戦し続ける文化
TechMagicは創業から挑戦し続けているベンチャーです。
調理ロボットや業務ロボットのように世の中にないものを作ろうとしていたため、創業当時は無理だと言われることも多くありました。会社を立ち上げてから断られた数は数えきれません。私たちが挑戦している事業は成功事例がないことからリスクが高く、頭の良い人ほど確率論で「できない」「難しい」と判断してしまうのは無理もないかもしれません。
しかし、挑戦しない会社に将来はないと考えています。そして、当たり前になってほしい未来を創る挑戦にこそ価値があると思っています。
重要なのは、どう挑戦するか。挑戦への想い、挑戦への仕方。挑戦への姿勢。TechMagicは中途採用100%の会社で、それぞれの領域でプロフェッショナルを採用しています。一人ひとりが強い想いを持って挑戦することで、不可能と思われた技術を実現し製品化に繋げてきました。引き続き、TechMagicは調理・業務ロボットの開発に挑戦し続け、新しい食文化を創造する企業を目指していきます。
顧客第一主義
創業した2018年2月、調理ロボットを顧客店舗に導入している会社はグローバルで調べる限り、一社もいませんでした。暗闇の螺旋階段を登るように常に正解を探した5年間でした。前例がないから正解もない、見本もない。頼りにできるのは、現場の顧客の声、そして心の中の情熱、志だけが進むべき道を示してくれました。顧客の課題の声を聞かないと社会に必要とされない製品・サービスを作ってしまい、会社を長期にわたって継続することはできません。この5年間振り返ると、もっと良い決断ができたのではないかと思うことはたくさんありますが、道を調整することで5年間生き残ることができたのも事実です。これからも情熱を持って、現場の声に耳を傾け、本質的な課題を一つ一つ丁寧に全力で解決していきたいと思います。
この5年の間に、消えていく同業他社も何社か見てきました。振り返るとベンチャー企業は競合に倒されるというより、自分たちの製品が売れなかったり、情熱を失ったり、挑戦しなくなって潰れていく企業がほとんどだと実感しています。だからこそ競合の動きに気を取られるのではなく、顧客課題を深く理解し、最高の製品・サービスを作っていくことに集中していくことが重要だと思っています。
正しい考えが勝ち、最後までやり抜く組織
TechMagicは、正しい考えが勝つ組織です。役職や等級、入社時期、年齢、所属部署、過去の経歴など関係ありません。常に議論の中で、正しい考えが勝つ組織でなければ優秀な人財にとって働きずらい環境になります。もちろん、社長である私も一緒で、自分の考えが常に通るべきとも思っていないし、そんな組織にしたいとも思っていません。優秀人財に囲まれ、お互いに成長できる組織でありつづけるために、正しい考えが勝つ組織として、社会・産業課題をテクノロジーで解決していきます。
最後に
これまでの5年間、食産業を代表する大手企業との製品ラインナップの拡充で、調理・業務ロボットのコア技術の確立に資源の投資をしてきました。飲食店の厨房や食品工場の生産ラインで稼働するロボットを開発するということで、顧客・パートナーの現場を深く理解し、課題解決に繋がるロボットソリューションの設計・開発を繰り返し、進化させていくことに向き合ってきました。当たり前ですが、現場の厳しい水準を満たし、期待値を超える価値を出し続けることで、世界トップクラスの調理・業務ロボットに成長させていただけたと顧客・パートナーの支えていただいたことに感謝し、世界最高峰のロボットソリューションをご提供することで恩返しできればと思っています。
TechMagicのビジョン「テクノロジーによる持続可能な食インフラを創る」、ミッションの「世界中に調理・業務ロボットを展開する」を目指していく上で、挑戦は始まったばかりです。実現できていないことばかりです。しかし、日本が誇るモノづくり技術と世界が認める日本の食文化を組み合わせることで、調理・業務ロボットはグローバルを目指せると確信しています。これまで5年は「日本で調理・業務ロボットNo.1になる」ことを志してきましたが、これからの5年で「グローバルで調理・業務ロボットNo.1になる」ことを実現しにいきます。
そして、TechMagicの優秀なメンバーと共に挑戦できているからこそ、向こう5年のワクワクした新たな未来を想像できていると思っています。最高な仲間たちと、あるべき未来を創りにいきます。
これからのTechMagicの挑戦に、引き続きのご支援・ご鞭撻宜しくお願い致します。