技術
エアシリンダの負荷率について考える
2022/12/13
SHARE
インターネットでの資料検索がまだ一般的でなかった頃、機械要素の選定は、紙のカタログとにらめっこで、計算を行っていました。
当時から、疑問に思うことが、エアシリンダ選定にでてくる「負荷率」という言葉です。
業界世界シェア第一位の空圧機器メーカーでは、現在、HPからシミュレーションによる選定プログラムがダウンロード可能になっていますが、未だに総合カタログには、昔ながらの選定方法が掲載されており、そこには、まず、「負荷率」を決めましょうと書いてあります。
今回のブログでは、このエアシリンダの負荷率について考察してみました。
カタログから考えてみる
カタログには、
○ガイドに乗った負荷の水平作動:1以下
○負荷の垂直~水平作動 :0.5以下
(注)特に高速で作動する必要のある場合は、負荷率をさらに下げます。
とあります。
この選定方式には、具体的な速度や加速度については記載がありません。
負荷率とグラフからシリンダ内径を選ぶのですが、変数は負荷質量(kg)となります。
ちなみにグラフから内径Φ20mm、0.4MPa、負荷率1の時の、押し側推力は、約120Nと計算通りです。
この時の負荷質量は12kgです。
逆算すると加速度10m/s2とみなすことも出来ます。ほぼ、1Gです。
ガイドなどの抵抗もありますが、せいぜい5%程度と考えます。
同じ条件で、負荷率0.5垂直作動の場合、負荷質量は6kgです。
加速度を逆算すると、20m/s2 自重を支える分の重力加速度を引くと、こちらもほぼ1Gです。
この考え方が正しいのかかなり怪しい気がしますので、選定プログラムでの結果を次で見てみましょう。
選定プログラムでの結果
水平作動の場合(負荷質量12kg、負荷率1に相当)
平均の加速度は加速度10m/s2には遠く及びません。
垂直作動の場合(負荷質量6kg、負荷率0.5に相当)
こちらも、同様です。
水平作動の負荷質量を30kgまで上げてみました。(負荷率2.5)
動作時間は少し伸びますが、問題なく使えるような気がします。
但し、終端の許容運動エネルギーが不足して、大きな衝撃が生じる可能性が大です。
垂直作動の付加質量を12kgまで上げてみました。(負荷率1理論的に限界)
一応動きますが、動き出しも遅く、実用的ではありません。
当然、抵抗や負荷の変動で、動かなくなる可能性もあります。
こんな設計を、やってはいけませんが、途中の設計変更などで負荷質量が思いのほか増えていることに気づかず結果こんな感じになっていることは稀にあります。当然、手直しが必要となり苦労します。
選定プログラムを活用するのがベター
以上から、選定プログラムが高機能化した現在では、負荷率を用いた計算は、間違いなく動く目安として捉えたほうが良さそうです。
省スペース化などギリギリの設計が要求される場合は、選定プログラムを活用したほうが良さそうです。
電磁弁の種類、配管径と長さなどを考慮した時間の算出、許容運動エネルギーの確認、ショックアブソーバー選定まで行うことが出来ます。
許容運動エネルギーを超えてしまうと、騒音や衝撃だけではなく、エアシリンダ自身が破損してしまいますので、選定は最後まで注意して行いましょう。